交渉実務 (更新: 2026年4月6日)

価格交渉資料の作り方|2〜3枚で通す

この記事の著者

森岡誠

価格転嫁の専門家・中小企業の価格戦略アドバイザー。「価格交渉は対立ではなく、取引先との共同課題解決」が信条。 プロフィール →

価格交渉の資料1枚で、転嫁の成否が変わる。「お願いします」という感情の訴えと、「これだけコストが上がっています」という根拠の提示では、担当者の動き方がまったく違う。担当者は社内で稟議を通す立場だ。感情ではなく、上司に説明できる事実が必要なのだ。

「どんな資料を持っていけばいいか」——この問いへの答えはシンプルだ。担当者が決裁者に説明するための資料を作ること。自分のためではなく、相手が社内で動けるための資料を設計する、という発想の転換が最初の一歩になる。


「通らない資料」に共通する4つの欠陥

支援の現場で数多くの資料を見てきたが、交渉が通らない資料には共通のパターンがある。

欠陥①:市場データがない

「材料費が上がっています」という言葉だけでは根拠にならない。担当者が「それは御社の問題では?」と感じたら終わりだ。業界全体で起きているコスト上昇を客観的なデータで示すことで、「構造的な問題として対応せざるを得ない」という空気を作れる。

欠陥②:希望価格が書いていない

「ご検討をお願いします」では担当者が社内で動けない。稟議書に「いくら上げてほしいと言われているか」を書けないからだ。「現行単価〇〇円を〇〇円に改定したい」と具体的な数字を明示することで、担当者が初めて社内で議題にできる。

欠陥③:担当者が説明できない構成になっている

資料は担当者が決裁者に見せるものだ。自社だけが理解できる専門用語や複雑な計算式が並んでいても、担当者は説明できない。「自分が決裁者に口頭でどう説明するか」を想像しながら資料を構成すると、自然と伝わりやすくなる。

欠陥④:適用時期がない

「いつから反映したいか」が不明だと、相手の予算計画に組み込めない。発注側も予算サイクルがある。適用時期を明示することで、担当者が「この予算期から対応する」という社内調整ができるようになる。


2〜3枚で完結させる資料構成

資料は多ければいいというものではない。枚数が増えるほど担当者は読まなくなり、決裁者への共有も滞る。2〜3枚に収めることが、相手への配慮でもある。

1枚目:背景と根拠

コスト上昇の状況を市場データで示す。「業界全体でこれだけ上がっている」という客観的な事実と、「それが自社にどう影響しているか」を続けて書く。最後の一行に取引実績や品質実績を添えると、「値上げを要求している業者」ではなく「長期的なパートナーとして交渉している」という文脈になる。

2枚目:提案内容

希望する価格調整の金額・率、適用希望時期、返答の期限を書く。一度に全額が難しければ「段階的な引き上げ案」を並記することで、相手が選択しやすくなる。担当者が稟議書にそのまま転記できるような、シンプルな構成にすることが重要だ。

3枚目(任意):補足データ

業界全体の転嫁状況(中小企業庁の調査データなど)や、コスト内訳の詳細を添付する。必須ではないが、交渉相手が「業界標準として対応しなければならない」と感じるための後押しになる。

▼ 2〜3枚で完結する資料の全体像

1枚目

背景と根拠

  • 市場データによるコスト上昇の事実
  • 自社への影響額・影響率
  • 取引実績・品質実績
2枚目

提案内容

  • 希望価格(金額・率)
  • 適用希望時期
  • 返答期限
3枚目(任意)

補足データ

  • 業界全体の転嫁状況
  • コスト内訳の詳細
  • 段階的引き上げ案

まず2枚で十分。3枚目は交渉相手に合わせて判断する

ある製造業のクライアントが初めて価格交渉に臨んだとき、持参したのはA4で2枚の資料だった。1枚目に日本銀行の企業物価指数と自社の仕入れ単価の推移、2枚目に品番別の希望単価と適用時期を記載したものだ。担当者から「これだけ整理してもらえれば社内で話を通しやすい」と言われ、3ヶ月後に一部転嫁が実現した。コンパクトにまとめたことが、担当者の動きやすさを生んだ。


資料に必ず入れる5つの要素

構成が決まったら、以下の5要素が全部入っているかを確認する。

① コスト上昇の根拠(市場データ)

自社の原価データがなくても、公的機関のデータで代替できる。「鉄鋼価格が過去2年で〇%上昇した」という事実は、日本銀行の企業物価指数で誰でも示せる。

使える公的データ入手先
企業物価指数(品目別)日本銀行
中小企業の転嫁率データ中小企業庁
最低賃金・労務費の推移厚生労働省
原油・燃料価格の推移資源エネルギー庁

② 自社への影響額・影響率

「鉄鋼価格が38%上昇した」という事実だけでは不十分だ。「その結果、当社の製造原価に月額〇〇万円の影響が出ている」まで示して初めて、担当者が「いくら対応が必要か」を社内で説明できる。

③ 取引実績・品質実績

「〇年から取引を継続し、納期遵守率99%」「過去3年で不良品ゼロ」など、関係の価値を示す一行が資料の重さを変える。値上げの要求ではなく、信頼関係の上での提案であることを示す。

④ 希望価格と適用時期

「現行単価〇〇円を〇〇円に改定し、〇月から適用をお願いしたい」と具体的に書く。段階的な引き上げ案を並記すると、「全額は無理だが半額なら今期から」という相手の判断を引き出しやすくなる。

⑤ 返答期限の明示

「〇月〇日までにご回答いただければ幸いです」と書くことで、相手の行動を促せる。期限がなければ担当者の優先度が下がり、回答が数ヶ月先に伸びることもある。

▼ エビデンスツールで出力できる資料のサンプル

2026/04/06

価格改定のご相談

2026年4月6日

取引情報

宛先(会社名) 株式会社〇〇製作所
対象製品・サービス名 鉄鋼部品 A-201シリーズ
現在の取引価格 ¥4,200/個

原材料コスト変動(日本銀行 企業物価指数)

比較期間:2024年1月 → 2026年2月

材料カテゴリ 起点 直近 変動率
生コンクリート 134.9
2024年1月
156.5
2026年2月
↑ +16.0%
プラスチック被覆鋼線 165.8
2024年1月
272.5
2026年2月
↑ +64.4%
人件費 104.3
2024年1月
109.9
2026年2月
↑ +5.4%

出典:日本銀行「企業物価指数」(2020年平均=100)

価格改定の背景

昨今の原材料価格の高騰を受け、現行価格での取引継続が困難な状況となっております。 つきましては、上記の公的データに基づき、価格の見直しをご相談させていただきたく存じます。

本資料に記載の物価指数は日本銀行「企業物価指数」に基づいています。
作成: 価格転嫁ナビ (kakakutenka-navi.com)

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資料の渡し方:一言目から「協議の場」まで

資料の出来と同じくらい、渡し方が重要だ。交渉の場の空気は、最初の一言で決まる。

▼ 渡し方の3ステップ

1

相手の状況を聞く

「最近、原材料の動きはいかがですか?」

→ 一方的な要求ではなく、会話から入る

2

担当者をまず納得させる

「なぜ上がったか」「いくら調整したいか」「いつからか」の3点

→ 細部より要点。担当者が決裁者に説明できる状態を作る

3

協議の場を提案する

「コストアップへの対応について、定期的に情報交換できる場を」

→ 単発の交渉で終わらせない。次の土台を作る

一言目は相手の状況を聞く

「最近、原材料の動きはいかがですか?」——これが最初の一言として有効だ。自社の事情を話す前に、相手の状況を聞くことで、「一方的に要求しに来た」という印象を避けられる。相手が「うちも大変で」と言えば、共通の課題として話が進む。相手の市況や価格転嫁の状況を雑談レベルで把握できると、その後の提案内容を微調整する材料にもなる。

担当者をまず納得させることが先決

資料を渡したら、担当者が内容を理解できるよう丁寧に説明する。担当者が納得していなければ、決裁者への橋渡しは起きない。ただし説明は要点に絞る。「なぜコストが上がっているか」「いくら調整したいか」「いつからか」の3点が伝われば十分だ。細部まで説明しようとすると、担当者が「持ち帰って検討します」と距離を置きやすくなる。

最後に:協議の場を提案する

希望価格の提示まで終わったら、最後にこう伝える。「コストアップへの対応について、定期的に情報交換できる場を設けられませんか。御社の状況もぜひ聞かせてください」。自社の転嫁を通すことだけが目的ではなく、相手の事情も理解したいという姿勢を示すことが重要だ。一方的な要求者ではなく、サプライチェーン全体の課題を共に考えるパートナーとして位置づけることで、次回以降の交渉の土台になる。


よくある質問

Q. 価格交渉の資料は何枚が適切ですか?

2〜3枚が理想だ。1枚目に背景と根拠、2枚目に希望価格と適用時期を載せれば十分伝わる。枚数が多すぎると担当者が読まなくなり、社内での回覧も滞る。

Q. 自社の原価データがなくても資料は作れますか?

作れる。日本銀行の企業物価指数や中小企業庁の公表データで原材料の市場価格推移を示せる。自社固有のデータと組み合わせると説得力が増すが、市場データだけでも交渉の入り口には十分だ。

Q. 資料を渡したあと、どのくらいで返答をもらえますか?

担当者の社内稟議サイクルによるが、一般的に1〜2ヶ月は見ておきたい。渡す際に「〇月末までにご回答いただけますか」と期限を明示することで、相手も動きやすくなる。

Q. 担当者ではなく決裁者に渡すべきですか?

理想は担当者を経由して決裁者まで届けることだ。担当者を飛び越えると関係が壊れるリスクがある。資料を担当者が説明しやすい構成にすることで、担当者自身が決裁者に動いてくれる。


まとめ:今日からできる3つのアクション

  1. 「通らない資料の4欠陥」を確認する——市場データ・希望価格・担当者が説明できる構成・適用時期、この4つが揃っているか
  2. 2枚の資料を作ってみる——1枚目に根拠と実績、2枚目に希望価格と時期。まず2枚で十分
  3. 渡す前に「最近、原材料の動きはいかがですか?」と聞く——相手の状況を把握してから資料を出す

資料は交渉のゴールではなく、入り口だ。担当者が社内で動ける資料を作ることが転嫁の第一歩になる。なぜ転嫁が通らないかの構造的な理由については価格転嫁できない5つの理由と突破口も合わせて読んでほしい。交渉のタイミングについては価格交渉のベストタイミングで詳しく解説している。


この記事の著者

森岡誠 価格転嫁・価格交渉の専門家・経営アドバイザー。製造業・建設業・運送業を中心に、中小企業の価格転嫁を支援。原価管理部門および経営コンサルティングファームでの実務経験をもとに、現場で使える情報を発信している。

著者について →

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